たとえ漠然とでも転職を考え始めると、「キャリア」という言葉に触れる機会が多くなるのではないでしょうか。
では、そもそも「キャリア」とは何でしょうか?
「キャリア」という言葉はよく使われていますが、わりと意味があいまいだったり、人によって解釈が違ったりしていることも多いようです。
そこで、「キャリアの本当の意味」や「本質的なキャリアの考え方」について、キャリアコンサルタントとして専門的な立場からお話しします。
目次
キャリアとは
「キャリア」の語源は、車輪のついた乗り物が通る車道を意味するラテン語だと言われています。
今の時代における「キャリア」の意味は、「狭い意味」と「広い意味」とに整理すると分かりやすいでしょう。
まず「狭い意味のキャリア」についてお話しします。
厚生労働省では「キャリア」という言葉を、このように定義しています。
「キャリア」とは、一般に「経歴」、「経験」、「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念として捉えられる。
※出典
「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書についてhttps://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html
公的な見解なので少し堅苦しい言い回しになっていますが、ごく一般的なビジネスパーソンの方が「キャリア」という言葉を使うときのニュアンスに近いのかもしれません。
主に、いわゆる「仕事」にかかわる経歴・能力・役職など、履歴書や職務経歴書に書くような内容です。
これを「ワークキャリア」という言い方をすることもあります。
次に「広い意味のキャリア」についてお話しします。
わかりやすく一言で言うなら「人生そのもの」という意味になります。
これは「ライフキャリア」と言われることもあります。
キャリアコンサルティングの世界でとても有名なドナルド・E・スーパーという心理学者は、「キャリア」について次の4つの定義を提唱しました。
- 人生を構成する一連の出来事
- 自己発達の全体の中で、労働への個人の関与として表現される職業と、人生の他の役割の連鎖
- 青年期から引退期にいたる報酬、無報酬の一連の地位
- それには学生、雇用者、年金生活者などの役割や、副業、家族、市民の役割も含まれる
※出典
木村周(2016)『キャリアコンサルティング 理論と実際 4訂版』雇用問題研究会 p.12
これらの定義について、それぞれ簡単にご説明します。
1.人生を構成する一連の出来事
「出来事」とは、職業にまつわることだけでなく、学校や家庭での生活、結婚や様々な転機など、人生で起きること全てを含んでいます。まさに「人生そのもの」です。
2.自己発達の全体の中で、労働への個人の関与として表現される職業と、人生の他の役割の連鎖
キャリアとは「職業」だけでなく、家庭や社会における様々な役割とが結びついた統合的なものです。
3.青年期から引退期にいたる報酬、無報酬の一連の地位
キャリアとは、金銭を対価として得る活動だけではありません。家事や育児、ボランティア活動など、無償の活動も含まれます。例えば、専業主婦や母親としての役割も含まれます。
4.それには学生、雇用者、年金生活者などの役割や、副業、家族、市民の役割も含まれる
スーパーは、キャリアには主に次の「6つの役割」があると言っています。
- 子ども
- 学生
- 市民
- 職業人
- 余暇を楽しむ人
- ホームメーカー(家庭人)
人生において、これらの役割は、連続する時もあり重なるときもあり、それぞれに割かれる時間も増えたり減ったりします。
ここまでは、「狭い意味のキャリア」と「広い意味のキャリア」についてお話ししてきました。
転職で評価されるキャリアとは
転職で求人に応募する時には、ほとんどの場合「狭い意味のキャリア=ワークキャリア」における能力や実績で評価されます。
スーパーの言う「6つの役割」の中の「職業人」として、「目に見える卓越した実績」があるかどうかです。
例えば、現職の会社で営業成績が社内でトップ3に入り、社長から表彰を受けたというような実績です。
別に表彰制度のようなものが無くても、あなたが卓越した高い能力を発揮したことを示す成果を、職務経歴書に書ければ良いのです。
言うまでもありませんが、転職の応募先の会社は、あなたが現在勤めている会社での実績を見て、自社に貢献してもらえる人材かどうかを評価します。
ですので、実は「今の職場で高い成果をあげること」が最高の転職活動になるのです。
そのことを意識して、「ワークキャリア」を積み上げるために積極的に行動していくと良いでしょう。
キャリアはどうやって積み上げればいいのか
では、「ワークキャリア」を積み上げていくためには、どうすれば良いのでしょうか?
ここでは、どんな仕事にも共通する大切なことを3つお伝えしましょう。
1.良質で多様な経験を積む
「目に見える卓越した実績」を積んでいくためには、多様な経験を通して能力を磨いていくことが大切です。
「ワークキャリア」における能力とは、実践経験から得た「智恵」であり、座学で学んだ「知識」ではないからです。
私のメンターは、こう言っています。
「仕事の報酬は『仕事』だよ」
つまり、自分に課せられた仕事をやり遂げることによって、周りの人から評価され、さらにレベルの高い仕事を任されることが、「ワークキャリア」の積み上げにつながっていくのです。
そのような考え方で、成長を促す「経験」が積めるような機会を、自ら取りに行くことが大切なのです。
2.逆境に飛び込む
例えば、あなたが、赤字が続き撤退寸前に追い込まれている新規事業を、前任者から引き継いだとしましょう。
もし、あなたの力でその新規事業を黒字化することができたら、きっと会社の救世主として周りの人から称賛されるでしょう。
さらに、その逆境の中で苦しんだ経験から多くのことを学び、能力も高まっているはずです。
それは、転職でも評価される「目に見える卓越した実績」になります。
もちろん上手くいかない場合もあるかもしれませんが、失敗からも多くの教訓を得られるので、自らの成長にはつながります。
3.偶然をチャンスに変える
例えば、突然の人事異動で、自分が全く想定していなかった部署や職種へと変わらねばならない場合があるかもしれません。
そのような「偶然」の出来事が起きたことの「意味」を、よく考えてから行動することが大切です。
突然の想定外の人事異動を「不運」と考えるのか、自らの新たな可能性を切り拓く「チャンス」と考えるのか。
その意味の捉え方によって、「ワークキャリア」の方向性が大きく変わっていきます。
過去の自分自身に対する思い込みに捕らわれると、将来の可能性を狭めてしまうかもしれません。
「偶然」をきっかけとして、新たな方向に進むための行動を試してみるのも良いでしょう。
今後のキャリアをどうやって考えればいいのか
最近は「人生100年時代」と言われるようになりました。
キャリアについて長期的に考える場合は、「広い意味のキャリア=ライフキャリア」へと視野を広げなければなりません。
なぜなら、一般的な会社では「定年」が定められていますが、人生はその後も続いていくからです。
先にお伝えした通り「ライフキャリア」とは「人生そのもの」です。考えるべきことは次の2つです。
1つ目は、どんな人生を生きたいのか?
2つ目は、年代ごとの役割のバランスをどう取るのか?
どんな人生を生きたいのか
1つ目の問いは、自分にとって理想的な人生のイメージを自由に描いてみることです。
生きていく上で、自分が一番大切にすべきことは何か、生きている間に何をやりたいのか、というような根本的な問いに対する答えを考えてみましょう。
そして、その理想的な人生を送るために、年代ごとの役割のバランスをどうすれば良いかを考えるのです。
それが2つ目の問いへの答えになります。
年代ごとの役割のバランスをどう取るのか
先にお伝えしたスーパーの言う人生の「6つの役割」を思い出してください。
それぞれの役割は、割合は変わるものの生きている限り続いていきます。
例えば、大人になってからも親御さんが健在なうちは「子ども」としての役割があるでしょう。
もしかしたら介護などの問題に直面するかもしれません。
最近では働きながら社会人向けの大学・大学院で学ぶ人も増えています。
その場合は「職業人」と「学生」の役割のバランスを取らなければなりません。
さらに結婚して子どもが生まれたら「ホームメーカー(家庭人)」の役割の割合も増えるでしょう。
そして、会社の定年後は「職業人」の役割を終えて「市民」の役割を増やし、地域のボランティア活動をやってみたいと思うようになるかもしれません。
ただし、誰にとっても1日は24時間しかありません。人生の時間は限られています。だからこそ「6つの役割」のバランスを考えることが大切なのです。
そのために、人生の節目となる年代ごとの「6つの役割」に割く時間の割合を、次のように書き出してみると良いでしょう。
子ども | 0% |
---|---|
学生 | 5% |
市民 | 5% |
職業人 | 50% |
余暇を楽しむ人 | 10% |
ホームメーカー | 30% |
今のあなたの割合はどうなっていますか?10年後にはどのような割合にしたいですか?
おわりに
これまで「本質的なキャリアの考え方」についてお話ししてきました。
実際に転職活動を進めていく場合には、「ワークキャリア」が重視されるということもお話ししました。
しかし、「なぜ転職するのか?」「どんな転職がしたいのか?」という根本的なことは、「ライフキャリア」から考えるべきです。
なぜなら、もっとも大切なのは、あなたが「どんな人生を生きたいのか?」ということだからです。
「職業人」として収入を得ることは、人生の「目的」ではなく「手段・役割」の1つに過ぎません。
人生は一度きり。
焦らずにゆっくりと立ち止まる時間を取って、あなたらしい「本質的なキャリア」を考えてみましょう。