中小企業には、大企業にはない独自の魅力があるのは間違いありません。
しかし転職先においては、中小企業よりも安定している大企業を選択する方が多いでしょう。
中小企業は倒産のリスクや資金力の弱さ、知名度の低さから、本命企業の「すべり止め」という位置づけになっている部分もあるようです。
そこで今回は、大企業出身者が中小企業へ転職する際のリスクについて解説したいと思います。
転職は人生の大事なターニングポイントですから、入社して後悔しないよう中小・大企業のメリット・デメリットを理解しておくことが大切です。
目次
中小企業から大企業への転職で生じるリスク
大企業でしか働いたことがない人は、中小企業の社風や職場環境を理解しておく必要があります。
そして中小企業のマイナス点を受け止め、納得した上で転職を行うことが大切です。
一人の業務の幅が広い
大企業であれば自分の業務がきちんと決まっていて、担当外の仕事をすることはほとんどないでしょう。
しかし中小企業はリソースが限られていますから、1人が担当する仕事の幅が広くなります。
営業職であれば事務的なことから経理まで、技術職でもお客様との交渉や社内調整までといった風に、部署の垣根を超えて仕事をしなくてはなりません。
教育制度や研修の充実度が低い
大企業の教育制度はとても充実しています。
新人研修に2〜3ヶ月かかるのが一般的で、世界的な大企業であれば、半年や1年の長すぎる研修期間が設けられています。
外部から講師を招いたり、OJTで現場を経験したりと、予算と時間をたっぷりかけて大切に育ててもらえるのが大企業の社員です。
一方で中小企業では、名刺の渡し方や電話対応の仕方といった基礎的なことは、一切教育されない企業もあります。
入社したら即現場。先輩の背中を見ながら「仕事はみて盗め」というような教育方針です。
給与や福利厚生の条件が悪い
大企業の平均年収は600〜800万円といわれています。
課長クラスで800万円以上、部長クラスなら1000万円超えが一般的です。
中小企業の平均年収は400万円前後で、大企業と比較すると300万円ほどの差が生じます。
大企業では年に2回のボーナスがもらえますが、中小企業は年に1回、賞与なしという企業もあるくらいです。
また退職金制度がない場合もありますし、家賃手当や食事補助といった福利厚生も、大企業のようには充実していません。
安定性や将来性が低い
日本にある企業の99%は中小企業ということもありますが、毎年約8000社の中小企業が倒産しています。
2017年に倒産した会社の平均寿命は23.5年。大卒で入社すると、45歳で働いていた会社が潰れるという計算です。
反対に、大企業は体力があるので簡単には倒産しません。
経営が厳しい状態でも、金融機関や国が支援してくれるという側面があります。
現在はビジネススピードが加速しており、昨日まで軌道に乗っていた事業が、明日も順調だと限らない時代です。
競合他社に負けない強力な武器がなければ、経営を継続していくことは非常に困難になっています。
最先端技術が取り入れられていない
大企業では、IT技術を搭載した社内の仕組みが出来上がっています。
すべてがデータ化され誰がどこにいても情報が共有・閲覧できますし、権限を設けて情報漏洩のリスクヘッジも万全です。
一方で中小企業はアナログなところが多く、I T化の遅れが指摘されています。
具体的には以下のような点です。
- 受発注にファックスを使用している
- 勤怠管理がタイムカードや手書き
- 資料を紙で保管
- コミュニケーションツールが電話
- 社員のスケジュールをホワイトボードで管理
ざっと考えるだけでも、これだけデジタル化が進んでいません。
大企業から転職すると、無駄だと感じるやりとりが増えることは、覚悟しておく必要があります。
社会的な信用が下がる
大企業に所属していると、大手企業に所属している社員と周囲から評価を得られます。
ネームバリューがあれば、安定した収入があることは明確です。
信用情報が必要なローンを組むときには、審査に通りやすいメリットもあります。
また友人との食事などで、企業名で自慢できることもあります。
大企業に所属しているだけで、社会的信用度が変わりますので、大企業に所属していることにプライドを持っている方にはつらい環境に置かれる可能性があります。
大企業出身への過度な期待
大企業から中小企業に転職すると、「○○社から来た人らしいから優秀だ」と過度な期待をされることがあります。
新卒入社時には大企業では何千人の中から選考を行いますので、ひと握りの優秀な人材しか残らないとの印象を持つ人も多いです。
大企業でのプレッシャーが嫌で、中小企業に転職する方も居ます。
しかし転職した先で、大企業ならではのノウハウを期待されたり、勝手に最初から仕事が何でもできると先入観を持たれてしまうことがあるのです。
のびのびと仕事をしたかったのに、実際は能力以上の仕事を求められることもあります。
一度人間関係が壊れると面倒くさい
中小企業は社内の人数が少ない分、社員ごとの結びつきが非常に強いです。
何らかのトラブルで一度人間関係が壊れてしまうと、その後の修復が難しくなります。
特に社内で嫌われたらまずい人に嫌われてしまうと、大企業以上に人間関係で悩むことも。
大企業で人数が多い分付き合う人間が多く面倒くさく感じることもあるでしょうが、中小企業は人間関係がせまい分、溶け込めなかったり嫌われると仕事に支障をきたすこともあります。
ぶっちゃけ、中小企業への転職はアリ?
大企業と中小企業のギャップが実感できたでしょうか?
では大企業出身者が中小企業へ転職することはアリなのか、深く考えてみましょう。
ブラック企業や業績の悪い企業を避ければアリ
中小企業の中には、ブラック企業と呼ばれる「社員を大切にしない企業」が潜んでいます。
また業績が悪い会社の場合、
- 残業代が支払えない
- 休日も働かせる
- 何年も昇給しない
という可能性も少なくありません。
しかし中小企業でも、世界的に匹敵するような技術力を持った企業もありますし、確実に売り上げを上げている企業だってあります。
業績がいい企業なら、大企業と変わらないような恩恵を受けることも可能です。
中小企業の特徴が自分に合っていればアリ
中小企業は規模が小さいので、社長のカラーが浸透していることが多く見受けられます。
また企業によっては20代や30代の若手を中心としたベンチャー企業も、活気があり人気です。
「安定の大企業か」「成長を実感できるベンチャー企業か」と二極化され、比較されることも少なくありません。
社長の考えや企業カラーにあなたがマッチすれば、大企業よりも自由にビジネスができます。
リスクを下げるためには転職エージェントの利用がおすすめ
大企業ではどんな事業をしているのか、売り上げがどのくらいなのかが、企業の公式HPやIR情報で誰でも確認できます。
従業員も多いため、口コミなどの情報も満載で、転職を考えるときの参考になります。
しかし中小企業の情報は手に入りにくく、今後の事業展開や社員の定着率も知る術がありません。
そこでオススメなのが転職エージェントを利用する方法です。
転職エージェントは企業の雰囲気やどんな社員が働いているかを直接みていますし、企業が求める人材についても深く理解しています。
それらの情報を事前に入手することで、「あなたの求める条件にマッチしているか」「希望する働き方ができるか」が判断できます。
またブラック企業を避けられるため、入社して痛い目に合うこともありません。
中小企業に限らず、転職は「情報」が命です。どれだけ情報を得られるかで採用が決まると言っても過言ではないでしょう。
中小企業から大手への転職はできる?中小出身者が転職で注意すべき点とは
中小企業転職失敗のリスク回避で必見のポイント11
ここまで読むと、中小企業への転職に自信をなくした人もいるかもしれませんね。
しかしポイントを抑え企業を見極めることで、転職を成功させることは可能です。
中小企業転職失敗のリスクを回避するために、皆さんが知るべきポイントは以下の7つです。
-
- 売上などの業績は好調か
- 社長や社員に活気があるか
- ITツールが導入されているか
- 社員の定着率・離職率をチェック
- レスポンスの速さや面接の雰囲気をチェック
- 求人情報と実際に働く雇用条件の乖離がないか
- 一人当たりの仕事の範囲を確認する
- 四季報に社名が記載されているか
- 福利厚生が充実しているか
- 離職率を公開しているか
- 残業時間の平均値が低いか
中小企業の面接でよく聞かれる質問と回答例!志望動機・自己PRのコツ
売上などの業績は好調か
中小企業にとって売り上げの確保は非常に重要です。
大企業の場合、たとえ大赤字の時期があったとしても、給料が支払われないことはありません。
ボーナスも前年通りにもらえたりします。
しかし中小企業の場合、売り上げがないと社員に払う給与も確保できないというところは少なくありません。
- どんな商品やサービスを扱っているか
- 競合他社はどんな企業があるか
- 売り上げの規模はどのくらいか
- 今後成長する可能性はあるか
これらを吟味して、転職先を選ぶことが大切です。
社長や社員に活気があるか
面接や社内見学で企業を訪問する機会があれば、ぜひチェックして欲しいのが会社の雰囲気と社員の活気です。
- 社員の表情が明るい
- 会話が多く飛び交っている
- 挨拶を返してくれる
という会社は、業績がいい、もしくは成長が期待できる企業です。
- 社内が静かで社員同士の会話がない
- 挨拶をしても返してくれない
- 社内が乱雑して清掃が行き届いていない
という企業は、経営がうまくいっていなかったり、上層部に対して社員が不満を持っていたりする可能性があるので注意しましょう。
ITツールが導入されているか
他社とのやりとりにファックスを使用している企業は数多くあります。
パソコンが支給されているにも関わらず、「メールが苦手」「メールを打つのに時間がかかるからファックスを使う」という人は意外と多いのです。
このような企業は業務効率が悪く、成長も期待できません。
入社しても非効率的な作業に時間をとられてしまうでしょう。
社員の定着率・離職率をチェック
「社員を大切にしてくれる会社か?」「正当に評価してもらえるか?」これらを確認するには、社員の定着率や離職率が判断材料になります。
居心地が良い会社なら社員は離れませんからね。
離職率が高く、頻繁に求人を出している企業は注意しましょう。
社長が社員に無理な仕事を押し付けたり、パワハラが横行するなど職場環境が悪かったりします。
ホワイト企業に転職したい人の完全ガイド!おすすめの転職サイト・エージェントも紹介
レスポンスの速さや面接の雰囲気をチェック
採用に関するやりとりでは、採用担当者のレスポンスの速度や面接での対応を、しっかりとみておくことが重要です。
- メールをしているのに何日も返信がない
- 書類選考や面接の合否連絡が遅い
- いつまでにという期日を設けていない
このような対応をする企業は、取引先やお客様にも同様の対応をしている可能性があります。
ビジネスにおいて時間を重視していない企業は、仮に入社しても得られるものがないかもしれません。
入社するなら、応募者の時間も大切に考えてくれるような企業を選ぶようにしましょう。
求人情報と実際に働く雇用条件の乖離がないか
転職活動を進めていく際には、求人情報が企業を知る手掛かりになります。
求人情報に実際に働く雇用条件が記載されているものの、実際に面談をしてみたら内容が全く違うことがあります。
試用期間が記載条件より長かったり、みなし残業が多かったりと、転職するデメリットの方が大きい場合もあります。
中小企業に風通しのよさを求めるもいますが、風通しが良い分上の指示に従うことが大企業よりも求められることもあります。
可能であれば事前に職場見学を行って、求人情報と実際に働く雇用条件の乖離がないかを、確認しておきましょう。
一人当たりの仕事の範囲を確認する
大企業の場合、各課、部ごとに裁量が決められていて、役職ごとに必要な仕事が割り振られている状況です。
しかし中小企業の中には、各人に任せられる仕事量が多く、一人当たりの仕事の範囲が広いこともあります。
仕事に熱心に取り組みたい方にとってはメリットに働きますが、大企業で残業が嫌で転職活動を決意したならかえってデメリットに作用する可能性もあります。
1人当たりの仕事の範囲を出来るだけ面接等で確認したり、企業の口コミを検索して実際はどうなのかを確認してみる事をおすすめします。
四季報に社名が記載されているか
会社四季報は東洋経済新報社が年に4回発行している情報誌です。
会社の基本情報のほか、株主比率や業績などが載っているので大まかな企業プロフィールが分かります。
中立的な立場で取材したデータを元に記載されており、将来性や実績に不安がある会社は記載されません。
四季報に社名が掲載されている会社は、入社後に判定して働くことが可能と判断できるでしょう。
福利厚生が充実しているか
福利厚生は企業から受けられる金銭以外のサポートや報酬のことです。
法定福利厚生は必ず導入が義務付けられている制度のため、どの会社も設定されています。
一方で法定外福利厚生は、会社が独自に定めたサポートのことです。
社員の生活の向上を目的に導入しているので、転職の際は法定外福利厚生をチェックしましょう。
中小企業の法定外福利厚生には、住宅や育児に関わる手当のほかに、食事補助や書籍購入補助などの福利厚生があります。
離職率を公開しているか
離職率を公表している企業は、IR情報に記載しています。
一方で、離職率を公表していない企業は、退職者に採用が追いついていない可能性が高いので、注意しましょう。
離職率が公開されていない場合は、ここ3年でどれくらいの離職者がいるのか面接で尋ねることも重要です。
残業時間の平均値が低いか
残業の平均値が低い中小企業は、働きやすい傾向です。
一般的に月20時間までの残業時間なら、ホワイト企業と判断できます。
転職する部署にもよりますが、残業の平均値が高いほど業務用が多い傾向です。
人員不足が続いて仕事量が偏っていたり、上司が能力を把握していない可能性も考えられるでしょう。
付き合い残業が慢性的になっている中小企業もあるので、注意してください。
転職の際は、残業時間について確認しましょう。
そもそも中小企業と大企業の定義とは?
テレビなどでも「大企業」というフレーズをよく耳にしますが、実は大企業に定義はありません。
しかし中小企業の定義は明確に定められていて、中小企業の規模より大きい企業を「大企業」と呼んでいます。
中小企業
中小企業の定義は「中小企業基本法」によって、資本金と従業員数が決められています。
また業種によって異なり、以下のように分類されています。
業種 | 資本金(出資の総額) | 従業員数 |
---|---|---|
製造業・運輸業・建設業・その他 | 300人以下 | – |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
大企業(大手企業)
先述した通り、大企業の定義は法律上ありません。
上記の中小企業の基準を超える企業が大企業です。
大企業に転職するメリット
中小企業への転職を検討する前に、大企業のメリットを理解しておきましょう。
福利厚生などの制度が整っている
さまざまな福利厚生が整っているのが大企業のメリットです。
家族手当や家賃補助、食堂や余暇施設、退職金制度など。
待遇をよくして社員の離職を防ぐのが、福利厚生を導入する理由です。
しかし福利厚生はかなりのコストがかかるため、中小企業では導入されないことがほとんど。
家賃手当などを含めると、大企業との年収差はさらに開いてしまうでしょう。
ブランド力や社会的信用がある
誰もが知っている大企業に入ることで、ステータスを感じることができます。
普段は厳しい親でも、自分の子どもが大企業に入社できたことは自慢でしかありません。
「これで将来も安泰」と、親孝行にもなります。
また社会的信用も高いので、住宅ローンなどの審査も通りやすいのがメリットです。
安定性や将来性がある
大企業は倒産の危険性が低く、年齢とともに給与が上がっていく仕組みになっています。
問題を起こしたり不正をしたりしなければ、定年まで安定して働くことが可能です。
近年は「大企業の終身雇用が崩壊」ということが注目されていますが、それでも中小企業に比べて安定していることは間違いありません。
大企業に転職するデメリット
メリットがある一方で、デメリットも存在します。
大企業はいいところばかりではありませんので、デメリットもしっかり把握しておく必要があります。
人数が多いため人間関係が難しい
まず社員が圧倒的に多いため、人間関係が狭い範囲に限られるということがあります。
所属している部署や関わりのある部署の社員以外とは、ほとんど口を聞いたことがないという人も多いです。
- 後ろの席の人が何をしているか知らない
- 上司とのコミュニケーションが取れない
- 出世しても同期が喜んでくれない
人数の分だけ色んな個性の持ち主がいるのが大企業のいいところでもありますが、性格が合わない人も一定の割合で存在します。
一人あたりの責任や裁量が小さい
大企業はビジネスの規模も大きいので、仕事の成果を感じづらかったり、存在意義を得られなかったりします。
また若いうちは裁量が小さく、自分が主体になって仕事を進めるには、ある程度の職歴も必要です。
しかし業務が細分化されていて、毎日がルーティン作業で終わってしまう人もしばしば。
大企業で活躍するには、自分の仕事の意義を理解し、主体的に業務に関わっていく姿勢が重要です。
古い社風が残っているところもある
大企業でも「今どきないでしょ!」というような古い社風や体質が残っている企業があります。
男性社員がおじさんだらけ、20代後半から30代前半の社員が極端に少ない場合は注意が必要です。
- 飲み会が強制
- 中途社員への風当たりが強い
- お客様より上司が偉い
- 上司より先に帰ってはいけない
- 目標を達成していない社員は残業代がでない
このような昭和的な社風を残している企業はまだまだあります。
中小企業へ転職するメリット・デメリット!転職に向いている人とは?
中小企業への転職を成功させたいならエージェントを利用しよう
中小企業は人手不足の傾向が強いこともあり、内定をもらえる確率が高い反面、情報が掴みづらいというデメリットがあります。
転職を成功させるには、どのくらい情報を掴めるかが鍵。
自己分析や応募動機を考えると同じように、情報収集を欠かさないようにしましょう。
企業情報を入手し、業界や企業の動向を読むには、転職エージェントを利用するのが近道。
職場の雰囲気、上司や同僚の特徴など、あらゆる情報をもらいながら、「応募するべきか」「転職で問題を解決できるか」を検討しリスク回避しましょう。