生命保険に加入すると受取人を指名して、任意の人に保険金を渡せます。
しかし保険金の受け取りに関してはトラブルがつきものです。
受取人に指定されている認識があっても、いざ保険金が受け取れる事態になった時に手元に来ないなんてこともあります。
実は自分が受取人に指定されていても、知らず知らずのうちに勝手に変更されているなんてケースも実在するのです。
今回はヒロナカFP事務所を運営されている廣中さんに、生命保険の受取人を勝手に変更された場合の対処法について解説していただきました。
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生命保険では受取人でも保険金が受け取れないケースがある
生命保険の受取人になっていたはずが、いざ事が起こった時に保険金が貰えない事があります。
なぜ?とお思いの人も多いでしょうが、実は、生命保険の受取人は、実は保険の契約をした契約者が自身の自由意志によって、受取人の同意なく変更することが出来るのです。
そのため、保険契約者から保険証券を渡されて、その証券に自身の名前が記載されていても、受取人の変更がされていれば新しい保険証券が発行されて、あなたの手元にある保険証券は無効になってしまうのです。
生命保険は契約をしている人が第三者を受取人にしているだけなので、あくまでも契約者の意向に沿う様にできているからです。
生命保険の受取人の変更とは
保険契約では、契約者と契約者が亡くなった時に保険金を受け取る受取人がいます。
原則は契約者が保険金の支払いをしており、被保険者となる保険を掛けられている人を指定します。
被保険者が亡くなった際に、保険金を受け取る受取人も契約者が指定することになります。
契約者と被保険者が同一人物であれば、単独で受取人の変更ができ、また、契約者と被保険者が異なる人物だった場合には、被保険者の同意の元で受取人の変更をすることができます。
受取人を勝手に変更されたトラブル事例
生命保険に関わるトラブルは数多くあります。
その中でも今回は、受取人を勝手に変更されたトラブル事例について詳しく解説していきます。
受取人の変更は、契約者の自由意志によって決まります。
例えば、
- 父が契約者および被保険者であって、受取人が次男になっていたものの、死後保険金を受け取ったのは兄だった
- 父が契約者および被保険者であって、受取人が娘になっていたものの、死後保険金を受けとったのは叔母だった
どちらも実際に起こった事例です。
生前に、受取人である事を伝えられており、仲が悪い訳でもないのに父がなんの断りもなく受取人を変更する事が実際にありました。
これらの事例には、抑えていくポイントが2つあります。
- 契約者である父に無断で受取人を変更していたのか
- 契約者である父の意思判断能力があったのか
この2つが受取人を勝手に変更されていた場合に対処方法となる最も重要なポイントになります。
①契約者である父に無断で受取人を変更していたのか
あくまでも受取人を変更できるのは契約者である父です。
例えば、父に無断で第三者が受取人の変更をしていた場合には、その変更は無効となります。
つまり、父に無断で変更した兄や叔母の独断での変更は意味がなくなり、正式な受取人はあなたに決定されるのです。
受取人の変更には、保険会社の人が対面または郵送で変更契約の書類に契約者の父によって自筆でサインをしなければいけないため、このケースでは筆跡鑑定などで対応して問題解決をする事例が多いです。
②契約者である父の意思判断能力があったのか
次に注目するのは、例えば、父のサインで受取人がされているケースで疑うべきなのはその変更がいつされたかということです。
保険金の受け取りが出来るのは、被保険者が死亡した後になります。
つまり、契約者と被保険者が同じであった場合には、父が死亡した後にしか受取人の変更がされたことがわかりません。
ここで、問題になるのはいつサインがされたかです。
その際に重要になるのが「父には意思判断能力があったのか」です。
死因には交通事故や病死だけではなく、高齢による寿命もあります。
特に高齢になった場合には、認知症等で意思判断能力が著しく低下しているケースも多くみられます。
判断能力がない父が何の書類かわからずにサインをしていれば、その契約行為は無効にできるのです。
判断能力の低下を示す証明が必要になることも
しかし、この手段を取るためにはその時に父の意思判断能力が著しく低下していたことを証明する必要があります。
一番の証明方法は医師の診断結果ですが、診断は都合よくおこなわれないことが多いです。
その場合には、裁判などを起こして当時の資料や証言などを元に法廷で決着をつけるのがいいでしょう。
保険金は金額が何千万円と大きいため、親族同士でも些細なことで揉めてしまいます。
揉めないためには、常に親族同士で話し合いなどを行なっていることが重要になります。
遺言による生命保険金の受取人で変更する場合
保険金の受取人は、遺言書でも変更可能です。
例えば、「私は、自信を契約者および被保険者として、○○保険会社と令和○年○月○日に契約した保険契約(保険証券番号○○)について、受取人を次女の○○に変更する。」
と上記の様に遺言書を変更することができます。
この場合は受取人を変更する前に変更前の人と変更後の人で、しっかり話し合っておくことが一番のトラブル回避法です。
遺言書であっても事前に承諾なく変更されるケースが多い
しかし実際には、受取人に事前に話をすることなく変更されることが多いので注意が必要です。
保険金の受取人に新しく指定された人は、保険金を貰う権利を新しく取得することができます。
前述しているとおりに、保険金の受取人の変更には、受取人の同意が不必要なため、遺言書などで最後の最後に変更されることもあります。
しかも、受取人は現在では、氏名だけが記載されており、本人確認や住所確認も行われないので、受取人の重要性は低いと現法では見られています。
この遺言は、旧法では成立していませんでしたが、法改正があり近年で出来る様になっています。
保険受取人になれる人の範囲には限定はありませんが、遺言書であっても被保険者の同意があって契約者が変更できることには変わりはありません。
また、遺言書以外の受取人変更でも同様に、変更時には受取人の続柄などは確認をしないことが多いです。
契約時には、しっかりと確認をしますが変更時にはそこまで確認をされないのが現在の保険会社の欠点になっているとも言えます。
遺言書での受取人変更は有効にならないことも
遺言書で気を付けるポイントとして、遺言書での受取人変更する際には相続人が遺言書の受取人変更の旨を保険会社に伝えなければ、この効力を発生させる事ができない事です。
そもそも、遺言書の内容を公開しないことは、その内容を知っている相続人にとっては最も避けるべき行為です。
もし、遺言書の内容を公開しなければ、その相続人は故人の遺産を相続する権利を無くしてしまいます。
遺言書執筆の際には形式にも気を配る
また、遺言書を書く際にはその書式にも気をつけなければいけません。
遺言書のタイプには3種類あり、
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
があります。
その内自筆証書遺言と秘密証書遺言では、遺言書自体が無効になる様な書き方をしている際には、遺言書の効力自体が無効になってしまうケースでは、せっかく受取人の変更を記載しても無効になってしまうので注意が必要になります。
公正証書遺言であれば、公証人役場で専門としている人がいるので効力が無効になるケースも少ないでしょう。
もちろん、自筆証書遺言や秘密証書遺言でも有識者からのアドバイスや確認をとっていれば安心です。
書き方としては、遺言書で「○○が契約している○○保険会社の生命保険を長男○○から次女○○に変更します」と記載されていれば問題ありません。
しかし「次女○○に遺産を全て相続させる」と記載した場合には、あくまでも今ある財産を受け渡すことになり、もともと長男○○が受取人になっていた保険金を次女○○に変更するという解釈にはならない可能性が高いです。
これは、保険金の受取人の変更がされているのか明確に記載されていないので、契約時や以前に変更していた保険金の受取人の権利があり、遺産とは別枠で考えられているからです。
旧保険法での受取人変更の問題点と現法
生命保険金の受取人の変更は、以前は保険会社に受取人が変更されたことを主張するために契約者から知らせることが必須でしたが、そもそもどの様に知らせるのかの決まり事が無く、トラブルの原因にもなっていました。
例えば、保険の契約者が新しい受取人に受取人の変更を伝えた場合には、その時点で受取人の変更の効力はあります。
しかし、保険会社がその旨を知らなければ、保険会社は契約内容に従って以前の受取人に保険金の支払いを行います。
この様なケースでは、契約者から保険会社に通知をしていないので、もちろん保険会社としては、新しい受取人に支払いをすることはできずに裁判の原因になっていました。
以前では、この様に融通が効かない手続き方法が多い傾向にありました。
また、逆に保険金の支払い前に新しく受取人となった人から保険会社に連絡があった場合に、以前の受取人に本当に支払っていいのか迷う様なことも多くあり、保険会社も受取人たちも苦労することが多くありました。
上記の様なトラブルが多発したため、新しく保険法が変更されるに至ったのです。
保険法の変更後は、「保険金の受取人変更をする場合には、契約者が行う際に保険会社に対して行う」ように定められています。
保険金の受取人の変更に関する要点まとめ
保険金の受取人の変更は、トラブルになることが非常に多いです。
元々、受け取る予定になっていた人からしてみれば、なぜ変更されたのかが分からなく最悪の場合では訴訟になってしまいます。
もし勝手に受取人の変更をされてしまった場合には、確認できるのは契約者になっている本人のみが現在の受取人の確認ができるので数年に一度契約内容の確認をするのもいいでしょう。
もし被保険者の人が亡くなった際に、受取人となっていたはずの保険金が違う人になっていたケースでは、契約者自身の意思で行われたのか、変更当時に意思判断能力があったのかが重要になってきます。
保険金の受取人をどの様に変えられたかは、事前には分からないケースが多いので、万が一、勝手に変更をされた際に上記の内容を知っている、知っていないだけで対応方法も大きく変わってきます。
勝手に変えられたのか、契約者の意思で行われたのかが重要なポイントになりますので、もし受取人を勝手に変更された場合は意思関係をしっかりと把握することがトラブル解決の第一歩です。